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天頂に輝く孤高のハイビート [時計]

 この時計は、私が機械式時計に興味を持つきっかけとなった品だ。


zenithrainbow.JPG
ZENITH Rainbow EL PRIMERO
これは購入時に撮影したphoto。まだ小キズも無くピカピカである。
BOXはオーナメントプレートの付属したLVMHの物。


 当時はクロノグラフとはどの様な時計かも知らず、ただその文字盤
の精密さと言うか、メカニカルな雰囲気に惹かれてしまったのだ。
某量販店の店頭に並んでいたこの時計は、当時の平行品でも私に
とっては非現実的な価格で、とりあえず文字盤にあるメーカー名で
あろうと思われる"ZENITH"という名前だけを覚えて店を出た事だけ
はハッキリと覚えている。

 ZENITHは1865年創業のスイス時計メーカーで、内部の機械である
ムーブメントを自社で製作するマニファクチュールだ。日本においては
昭和初期に鉄道省がその懐中時計を正式採用した事で知られている。
鉄道時計に指定される程、その技術力は高く、1940年代には高精度の
時計に与えられる"クロノメーター"規格のCal.135等が有名である。
 そして1969年には自動巻き10振動(36000振動/時)のクロノグラフ
用ムーブメントをモバードと共同開発し、そのCal.3019は時計業界を
驚かせた。以来ZENITHは硬派なスポーツウォッチメーカーとして名を
馳せる事になる。

 クロノグラフとはストップウォッチ機能を持ち、それを通常使用時
と同じ動力源(ぜんまい)で駆動させる能力を持った時計で、通常針
へと供給される動力を、文字盤の中にある小さな文字盤上の針へ
も供給し、各種の計測を可能とする機能である。
 上のphotoにあるRainbowも、通常の秒針は9時位置にあるそれで、
右上のボタンを押す事でセンターにセットされた秒針がスタートする。
そして1分毎に3時位置の30分計測針が1目盛りづつ動き、さらに6時
位置の12時間計がそれに連動するのである。スタートボタンをもう
一度押すと計測が止まり、右下のボタンを押すと針が計測前の位置
へとジャンプ(リセット)する。
 さらにクロノグラフの機能として、文字盤外周の目盛りや数値を読み
取る事で、単位時間あたりの色々な計測が可能であり、ちょっとした
計算尺と言っても良く、それに特化したパイロット向けのクロノグラフ
も存在する。

 私がこのRainbowを入手したのは、某量販店で電撃を受けてから
数年後で、入手するまでちょっとしたストーリーもあり、今でも私に
とってこのZENITH Rainbowは特別な意味をもつ腕時計である。
 その洗練されつつも実に機能的で、滑らかにすべる秒針が踊る
スッキリとした白い文字盤に耳を近づけると、10振動のハイビート
サウンドが私を楽しませてくれる。



 その後ZENITHは、ルイ・ヴィトングループの傘下となり、宝飾路線
に走ってしまったのだが、近年はかつての硬派なスポーツウォッチ
路線に回帰し、今年のバーゼルではかつての硬派なZENITHを彷彿
とさせる魅力的なラインナップが出てきたのは喜ばしい。

 ZENITH。時計ファン以外にはやはりマイナーなメーカーかもしれないが、
もし機械式時計の購入を考えているならば、是非ともZENITHをその候補
に入れる事をお勧めしたい。




タグ:Cal.400 zenith

傑作であり名品であり、そして"超"実用品であり・・・ [時計]

 この懐中時計、SEIKOの傑作である事は疑いようが無い。


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19セイコー(東京南鉄道管理局)


 19セイコーは昭和4年に発売された日本製懐中時計の名品で、
発売当時の価格は14円50銭であった。戦時中は軍需品に指定
され、零戦をはじめとした航空機や戦艦、戦車等に搭載されて
いた。
 戦後、精工舎は疎開させていた残りのパーツをかき集め、この
懐中時計を鉄道省御用達として復活させたのだ。

 19セイコーの特徴として、秒針規正装置がある。この装置は
リュウズを引っ張ると、秒針が"0位置"まで動き、そこで止まると
いう機構で、時計を正確に時刻合わせし易くなっているという、
いかにも鉄道時計らしいギミックだ。


 私が所有するこの19セイコーは、15石のCal.9119Aを搭載した
手巻きの機械式で、東京南鉄道管理局で使用されていた品だ。
日差も±10sec前後と、日常使いに全く問題無い精度である。

 19セイコーは昭和47年後半から、ムーブメントを徐々に腕時計
用のクォーツに変更し、秒針も6時位置の"スモールセコンド"から、
長短針と同じ位置にある"センターセコンド"タイプとなってしまい、
昭和50年頃には全てクォーツとなってしまう。
 機械式19セイコーの相場は、日常の使用に耐えるコンディション
のOVH代込みで、おおよそ35,000~40,000円である。



 19セイコー。今、同じクオリティの機械式懐中時計をSEIKOが
発売するとすれば、30万円くらいはするだろう。それを考えれば、
一生物と言えるSEIKOの機械式懐中時計が高くて40,000円程度
で買えるというのは、高いどころが安いと言える。

 鉄道や機械式時計に興味がある人は勿論、長く使える機械式
時計の購入を考えている人は、この19セイコーを購入候補の1つ
として考えてはいかがだろうか?。



一生物とは [時計]

 雑誌で初めて見た時、その上品さに惹かれ、某宝飾店
で実物を見た時、一目惚れしてしまった。
 勿論、私にとって分不相応な品である事くらい十分に
理解しているし、価格的にも私が所有するには、あまり
に贅沢過ぎるのも承知している。



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Jaeger-LeCoultre REVERSO Grand Date


 28800振動の手巻きCal.875。ケースを裏返せば、何時でも
その繊細なムーブメントを楽しむ事が出来る。
 徹底的に磨き上げられたコート・ド・ジュネーブのブリッジ
が素晴らしく、8daysを誇るロング・リザーブのダブル・バレル
がこの複雑な機構を駆動している。スクエアなケースは、その
縦横比のバランスが素晴らしく、さらに10時30分の位置にある
パワーリザーブ針とそのインデックス、5時位置にあるスモール
セコンドのダイアル配置、さらに2つ窓のビッグデイトも絶妙で、
これらの配置はほんの僅かに違ってしまうだけで、この上品さ
を醸し出す事は出来ない程に計算され尽くされデザインである。
本当にいくら眺めていても飽きが来ない。


 Jaeger-LeCoultreというメーカーは、内部のムーブメントも全て
自社製というマニファクチュールであり、その卓越した優秀な
ムーブメントは、カルティエの腕時計にも搭載されている程だ。

 ご存じの方も多いと思うが、現在のスイス製機械式時計は
その殆どが汎用品の機械(キャリパー)を搭載しており、現在は
ETAというメーカーが一大勢力である。同じETA社製のムーブ
を搭載していても価格に差があるのは、メーカーがETAのムーブ
を自社で更にブラッシュアップし、モデルによっては部分的に
自社製パーツ(ローター等)を搭載しているからである。
 さて、Jaeger-LeCoultreのように、全て自社で賄うとはどう
いう事か。それは何時如何なる時でも、メーカーでの修理が
可能であるという事だ。
 Jaeger-LeCoultreは、自社製の機械に関して全ての設計図を保管
している。そしてどんなに古いパーツに関しても、そのパーツを
製作するための古い工作機械を常に完動状態にメンテナンスして
いるという。勿論、スイス送りの部品新造修理ともなれば、並行品
のオメガが新品で1本楽に買える位はするであろうが・・・。

 このGrand Date、その上品なデザインは、時計に興味の無い人で
あっても何かしら感じるようである。よく人から"高そうな腕時計
ですね"と訊かれる事がある。勿論とても高いのだが、敢えて価格
を教える様な事は一切していない。
 また、見ての通り革ベルトなので夏場は全く使わないのだが、
今年はこの冷夏なので、例年より早く活躍させてやれそうだ。




 以前にもこのblogで記したのだが、機械式時計とは究極の
アナログ工業技術作品であると思っている。
 たしかにこの時計、私が所有するなど身の程知らずな逸品
であり、今はまだこの時計の貫禄に所有者が負けている感は
否めない。

 このJaeger-LeCoultre REVERSO Grand Date。眺めれば眺める
程に思う事がある。
 人生経験を積み重ね、いつかこの時計を身に付けるに相応しい
人間になれるだろうかと・・・。 


優等生な実用品 [時計]

我ながら、実に嫌みなphotoである(笑)。

rolexdatejust.JPG
ROLEX DATEJUST Ref.16234


 以前、このblogで記したGMTマスター2とこのDATEJUST
が私の所有するROLEXである。このDATEJUST、私にとって
は初めてのROLEXであったので、某デパートの宝飾品売り場
で正規品を購入した。ちなみにGMTの方は並行品である。


 最初はコンビモデルなど、全く買う気は無かった。私が目
を付けていたのは、オイスターブレスの青文字盤にバーイン
デックスのモデルだった。いかにも"ROLEX"なコンビモデル
よりも、やはりスタンダードな方がが良いと思っていたので
ある。なによりコンビモデルは、どうも世間的に"オヤジロレ"
なイメージが付きまとう。
 ところがどうしてどうして、このホワイトゴールドコンビ。
とても上品でお洒落な雰囲気が、何ともフォーマルな感じで
魅力的だ。スッキリとした飽きのこない白文字盤の上でローマ
数字がアイデンティティを主張しているところなど、ちょっと
した場に出るには持ってこいである。
 さすがにデニムに安いTシャツ等の普段着では浮いてしまうが、
それでも想像以上に色々なシチュエーションでハマってくれる
時計だ。
 特にこのジュビリーブレスと呼ばれる、5列パーツのしなやかな
ステンレス製ブレスは、黒いフォーマルウェア等の袖口で、さり
げなくその控えめな存在を主張してくれる、何とも優等生な時計
である。
 そして意外にも、私が所有する腕時計の中では、一番視認性
が高い時計でもある。インデックスにもハンド(針)にも、全く夜光
が使われていないと言うのに、薄明かりの中ですら、あのBALL
ハイドロカーボンよりも、パッと見で時刻を読み取りやすいのだ。


 ROLEXのコンビモデルには、このホワイトゴールドとイエロー
ゴールドのタイプがある。価格的にはイエローの方が高価なの
だが、その理由はブレスにある。
 この5列から成るジュビリーブレス。ホワイトコンビは中央の
3列がポリッシュされたステンレスで、18kホワイトゴールドなのは
ベゼルの部分だけなのだが、イエローコンビは中央3列も18kなのだ。
 ROLEXのコンビモデルは、圧倒的にイエローゴールドの方が
人気が高く、店頭でもホワイトはイエローに比べ品数が少ない。
確かにイエローの方が主張があり、ファッションアイテムとしても
非常に個性的なアクセントになってくれるが、やはり私はこの
ホワイトゴールドの方が好きだ。確かに主張はないが、その
"さりげなさ"が気に入っている。


 ROLEXオーナーの方はご存じであろうが、ここ数年でROLEX
は多くのモデルでモデルチェンジを行い、今はこのモデルもRef.No.
が116234と6桁になっている。現行モデルはもっとボリュームの
あるケースになり、ジュビリーブレスの中央3列も無垢コマとなって、
より存在感と見た目の安定感が増した雰囲気になっている。


 贔屓目無しで、私は現行モデルよりもこのRef.No.5桁の方が
好きだ。GMT2とDATEJUST。この2本だけで、実用品として
の腕時計は十分である。

究極の実用機能 [時計]

 ある意味では、機械式時計ファンにとってこの上なく邪道で
ある事くらい、私も十分承知している。カテゴリーとして”時計”
ではなく、”ハードウェア”とすべきかもしれない・・・。

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CASIO GS-1200SP-1AJF(FIRE PACKAGE '09)


 本来の型番はGS-1200-1AJFであるが、この1200SPは
カードケースが付属する"FIRE PACKAGE '09"、限定版
である。カードケースが付属する以外はFIRE PACKAGE
専用のBOXに入っているのだが、それで差額が700円。
我ながら何と"限定"という言葉に弱い事か(笑)。

 この時計、かのG-SHOCKシリーズである。G-SHOCKと
言えば、キアヌ・リーブス主演の映画、"スピード"で彼が
使用していた事で有名になり、当時はモデルによって途方
もないプレ値が付いた程だ。G-SHOCKと言う時計は、必ず
何年かに1度ブームが起こるようで、特に大きなブームは
3~4回あったように記憶している。 因みに私の認識だと、
キアヌの時は2度目だったように思う。


 このモデル、タフ・ムーブメントを搭載したGIEZシリーズ
である。このTOUGH MVTは日本、北米、イギリス、ドイツ、
そして中国の標準時刻電波に対応し、時刻を自動で修正
する。そしてそのケースは樹脂製のベゼルで包み込まれ、裏は
20気圧防水機能を有するスクリューバックだ。当然だがタフ
ソーラーなので、太陽のみならず蛍光灯のような弱い光で
あっても、そのソーラーパネルが確実にキャパシタに蓄電
してくれる事により、確実に標準時の電波を捉え、その文字盤
は常に正確な時刻をオーナーに示してくれるのである。
 そして個人的に凄いと思ったのは"針位置自動補正機能"だ。
これは時針、分針、秒針のズレを自動的に補正する機能で、
ムーブメントの歯車に空けられた300ミクロンの穴を、LED
の光が受光素子に向け1秒間に16回点滅し、各針のズレを自動
で補正してくれるのである。剣ズレに神経質な人にとっては
非常に有り難い機能だろう。

 私は機械式時計が好きだ。時計機械というものは、ある
意味においては人間が創り出した、実用の為の究極のアナ
ログ手工業技術であると言える。巻き上げられたゼンマイ
が歯車を回し、極限まで調整されたテンプが、24時間で
(高精度な時計は)数秒という精度でその動きを制御する。
そんな時計で時間を確認する人は、その時計ケースの中で、
小宇宙と呼べるレベルの、人間の手が創り出した、極限の
アナログなテクノロジーが、休むことなく、ただただひた
すら動き続けている事など考える事は無いし、実際にその
必要も無い。 
なんと奥ゆかしくも悠久な時の流れと動きを感じる事か。
これ程に精密でありながら、単純な作業を淡々と続ける
小宇宙。それこそが機械式時計の魅力なのである。


 しかし、今回はあえてG-SHOCKなのである。


 この時計は電子部品の固まりである。壊れたら中身は全部
取り替える以外に無い。機械式のように、腕の立つ時計師の
手で修理可能というような代物では無く、ましてや数十年後
に故障した際、本来の機能そのままの形で修復が可能である
可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
 しかし、この機械式時計とは対局に位置する時計G-SHOCK
には、機械式には無いスピリッツがある事もまた事実である。
 針位置の自動補正、世界6局の標準時間電波を正確に受信し、
的確に時刻を合わせるアンテナ。それらを統括する複雑なアルゴ
リズムを制御するSoftWear。そしてムーブメントは対衝撃性に
優れた20気圧防水のケース内に、各パーツ毎に樹脂と金属を
使い分けたハイブリッドマウントという技法で収められている。
これにより、ムーブメントは自重をケース内に高効良く分散させて
マウントされているのだ。しかもハイブリッド構造とする事で、
稼働時に各部にかかる1つ1つのパーツの応力すら、効率的に分散
されていると言う。
 これだけの機能を搭載させつつこのシリーズ、今までのムーブ
メントより小型化されていると言うのだから天晴れなものだ。


 人間が極限まで研ぎ澄ました技法の究極的アナログ、それが機械
式時計であるが、G-SHOCKのように現代デジタル技術の根本である、
半導体技術を駆使し、それを満載した時計も、私にとってはその機能
に限った意味以上に究極の実用GEARとして魅力を放っているのだ。

 さて、このG-SHOCKという商標を持つ、時計機能をメインとする
電子DEVICE。私が年老いて目や耳が遠くなり、自分の足で歩く
事すらままならなくなった時、果たして本来の機能を失わずにいて
くれるのか、今から非常に楽しみである(我ながら捻くれた感情では
あると思うが(笑)。


時を刻み続ける -Rail Road WATCH- [時計]

 私は機械式時計が好きで、当然ながら懐中時計もいくつか所有
している。これはその中でも、懐中時計コレクターにとっては”定番”と
言える品である。


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ILLINOIS BunnSpecial 21J 10kGF

 米イリノイ社の名機、バンスペシャルの21石である。ムーブの
シリアルを調べた結果、1929年製である事が解った。まあ、懐中
時計としてアンティークと呼ぶには少々若ような気はするのだが、
ギリギリOKであろう。 
 ゴールドシャトン、6Position(w/temp)、モーターバレル、スワン
ネックにバイメタル切りテンプ、青焼きされた巻き上げヒゲと、
レイルロード規格のお約束満載である。勿論ケースは10kGFの
Wadsworthだ。

 機械式時計といえばスイスと思われがちだが、スイスの時計機械
技術が世界のトップレベルとなったのは戦後の事で、それ以前は
アメリカ、さらに第一次大戦以前はイギリスとフランスである。

 このILLINOIは"RailRoadWATCH"と呼ばれる鉄道規格のアメリカ製
懐中時計である。


 1891年4月19日、米国のミシガンで大きな鉄道事故が発生した。
単線区間で列車が正面衝突したのだ。原因は西へ向かう列車の
機関士が持っていた時計が4~5分遅れていた為である。機関士は
自分の列車が予定より早く次の交換駅まで行けると判断し、その
駅での列車交換をせずに発車。結果的に定刻で運転していた対抗
列車と衝突してしまったのだ(現代の鉄道規範からすれば、機関士
が独断で列車を早く出すなどあり得ないが)。この事故を受け、
米国鉄道局は、あのBALL社に鉄道業務における時計と時間
管理に関する調査を命じ、RailRoadWatchの規格を制定した。

・視認性確保のため、蓋の無いオ-プンフェイス
・サイズは18、もしくは16
・17石以上
・ 5姿勢以上の精度が一週間で±30秒以内
・華氏34度から100度で誤差を調整
・緩急微調整装置を装備
・時刻合わせはレバーセット(不用意にリュウズを触っても針が
 動かない)
・白い文字盤に太い数字を表記し針も黒く太い物を装備

 上記の要項は商品としての基準となり、RailRoadと呼ばれる
時計は鉄道局御用達と同じ品質基準を表す、グレード名的な
意味合いを持つようになるのだが、私のILLINOIS BunnSpecial21j
は鉄道局の認可を受けたモデルである。
 ちなみにBunnSpecial以外では、Sangamoが鉄道局の認可を受け
たILLINOI製RailRoadとして知られている。


 ILLINOIというメーカーは、どうも今ひとつ目立たない印象では
あるのだが、同時代にはWALTHAM、ELGIN、HAMPDENといった
メーカーの生産数が突出したいた為だろう。しかし生産数では
1930年にHAMPDENを抜いているのだが、この頃は既にHAMILTON
に買収されており、1940年頃には時計史からILLINOIの名は消えて
しまっている。
 ILLINOIは非常に技術力の高いメーカーで、先述のBALL等にその
ムーブメントを供給しているのが興味深い。

 当時の米国では、鉄道時計は全て支給ではなく買い取りであった。
その為、価格を抑える意味でも金無垢ではなく金貼りケースが採用
されている物が殆どだ。当時、時計そのものが高級品であった時代、
鉄道マンにとって懐中時計1つが如何に高価な品であったかは想像
に難くない。その為、これらの米国製懐中時計は非常に大切に使わ
れてきた物が多く、今でも十分実用に耐える精度を保っている上に、
造りそのものが実に堅牢なのである。


 このBunnSpecialは某アンティークウオッチ店で購入した品だ。
時計を専門としないアンティークショップに比べて多少高価では
あったのだが、ある程度専門性の高いショップであれば、当たり
外れのリスクが少なくて済む。
 購入直後はテンプのガンギに極細いナイロン屑が絡まっていて、
ゼンマイのトルクがフル状態でなければ止まってしまうというトラ
ブルはあったのだが、それ以降は日差±3秒という、驚くべき精度で
動いている(季節によって違うのだが)。ホーローの文字盤には6時位置
に3mm程度のクラックがあるが、それ以外にヒビは無くコンディション
は至って上々である。勿論全体を見れば、ケースは年月相応のすり減り
や無数の小キズだらけだが。

 このBunnSpecial、新品時は鉄道マンのポケットの中で、共に広大な
アメリカ大陸を走り回っていたのだろう。その鉄道マンは、引退後も
この時計を大切にし、息子や孫の代まで使われていたであろう事は、
現在のコンディションからして間違い無い。
 そんな時計が、どの様な運命を辿って、どうしてこのような極東の
島国までやってくる事になったのか・・・。




 もし出来る事なら、この懐中時計の最初のオーナーに伝えたい。

 "あなたが大切にし、共にアメリカの大地を走っていた時計は、
  今も私の元で、正確に時を刻んでいますよ"

 と・・・。

"超"実用品としての存在意義 [時計]

 OVHに出していたのだが、予定より早く返ってきた。
こいつは私にとって、日常の一部と言って良い相棒である。


rolegmtOVH.JPG


 GMTマスターは今から約50年前にデビューした、ROLEXの
スポーツラインに属するモデルである。当時の国際線パイロット
からホームタイムとローカルタイム、異なる2つの場所の時間が
一目で分かる時計のニーズがあり、それにROLEXが応えたのが
GMTマスターである。パンナム航空に正式採用されていた時代
もあり、GMTマスター2となった今でも、その基本デザインは
登場時から殆どと言って良いほど変わっていない。つまりそれ
だけ完成されたデザインなのだと言える。これは半世紀と言う
時の流れを考えれば、実に驚異的な事ではないだろうか(その
意味ではオメガスピードマスターシリーズも実に素晴らしい
一品である)。

 赤い針は24時間針になっており、基本的にホームタイムを
指す。そしてGMTマスターのアイデンティティたるローカル
タイムの表示方法であるが、短針のみ1時間単位で動かす事で
時差を修正するのである。
 つまり、外国に行く際、短針を前後に動かしてその国の時間、
ローカルタイムに合わせる。そして赤い24時間針は日本(ホーム
タイム)を指しているという事になる。勿論、左右に回転する
ベゼル(文字盤外周の赤黒の部分)を動かし、24時間針でローカル
タイムを表示させても構わない。
 欠点としては、止まってしまった時に日付を合わせるため、延々
と針を進める必要がある事だろうか。そう、この時計はその機能
ゆえに、日付表示だけを単独で変更する事が出来ないのである。



 私自身、仕事で海外に行く事は全く無いのだが、ある意味
"プチ・コンプリケーション"と言ってもよいGMTマスターは、
その実用性や機能性、普段使いにおける信頼性と言った意味で、
非常に高い存在理由を持つ実用品だ。

 同じROLEXスポーツラインであるサブ・マリーナの方が、
ある意味実用度は高いかもしれないが、機能性という意味
ではGMTの方が上であると個人的に思っている。一方同じ
スポーツラインでも、不動の人気を誇るデイトナであるが、
特に人気のZENITHムーブを搭載したデイトナ以外は食指が
動かない。さらにそのムーブに関して言えば、私はオリジ
ナルであるZENITHのCal.400を搭載したZENITHレインボーを
所有しているので、今さらプレミア価格でエル・プリメロ
を搭載したZENITHムーブのデイトナを所有したいとも思わ
ない。またEXPLORER-1はその高い視認性と実用性が素晴ら
しいモデルであるのは認めるが、個人的にデイト表示が無い
のは残念だ。人によってEX1を未だに"キムタクモデル"と呼ぶ
のには辟易してしまう(苦笑)。
 結果的に、私にとってベストバイのROLEXスポーツモデル
はこのGMTマスター2という事になる。

 さて、またこいつとの日常が帰ってきた訳だが、それは
別に特別な事では決してなく、GMTがOVHに出ている間、
別段日常に不便をきたしていた訳でも無い。 

 ROLEX。確かに私が身につけるには、少々贅沢な品
ではあるかもしれないが、私にとってROLEXはあくまで
"腕時計という実用品"に過ぎない。





 私として、近々にROLEXの購入を考えている多くの人に考えて
欲しい事がある。
 ROLEXという時計にブランドステータスなど求めずに、敢えて
"腕時計は所詮日常使いの実用品である"と考え直し、その上で
ROLEXという会社のポリシーと存在理由を考えて欲しい。実用品
としての腕時計なら、ROLEXよりはるかに安く高精度な腕時計は
星の数ほど存在する。ある意味では電波ソーラーのG-SHOCKなど、
究極の腕時計と断言出来るだろう。
 それでも敢えて"自分はROLEXを選ぶ"というなら、それはそれで
大変結構な事だ。腕時計という市場におけるROLEXの存在理由
とその本質を理解し、自分で稼いだお金をたかが腕時計一本にこれ
だけ払う価値があると納得できれば、その人は本当の意味で"ROLEX
ユーザー"であると言えるのだから。

普遍的な存在 [時計]

rolexgmt.JPG

 結局、こいつの利用頻度が一番高い。



 精度、堅牢性、視認性。これ程までに高いレベルで、これらを全て融合
している腕時計はちょっと他に無いだろう。


 ROLEX GMTマスター2(Ref.16710)


 ROLEXはもう一本、DATE JUSTの白文字盤ローマ数字(Ref.16234)を
所有している。他にはZENITHレインボークロノグラフ、Jaeger-LeCoultre
レベルソグランドデイト、JACQUES ETOILE世界200本限定のVenus175
等が主な普段使いの腕時計だが、Jaeger-LeCoultreは防水性に難がある
ため、当日の天気予報で降水確率が高い日は使わないようにしている。

 ZENITHレインボークロノグラフは、私が腕時計に惹かれるきっかけと
なった1本で、当時は"クロノグラフ"とは、使い方はもとより、どんな
時計なのかも知らなかった。
 今やZENITHはすっかり高額tな宝飾時計となってしまったが、私の
レインボーはZENITHがまだ硬派なスポーツウオッチを得意としていた、
ある意味ZENITHが最もZENITHらしかった時代、最後のスポーツモデルと
言えるだろう。

 Jaeger-LeCoultreレベルソ・グランドデイトは、その上品さにおいて、
このクラスでは他に並ぶ時計は無いと思っている。スクエアのケースに、
一部の隙も無く並んだハンド類。セコンドダイアルとパワーリザーブの
配置も絶妙である。惜しむらくは、所有者がこの時計の上品さに負けて
いるところか(苦笑)。
 手巻きではあるが、ダブルバレルを採用した8日間ものロング
リザーブは、想像以上に使い勝手が良い。





 ROLEXは決して高級時計ではない、非常に高価な超実用時計
であるところが、その本質である。堅牢なケースに収められた、
洗練された設計のムーブメント。飽きのこない普遍的なデザイン、
そして機械式としては最高ランクの精度。それこそがROLEXの
本質であり、存在理由の根幹なのである。

 ROLEXに限った話しではないが、どのようなブランドでも
お金を出して"ステータスを買う"のは個人の自由だ。がしかし、
その根底にある本質を理解しなけば、決して真実は見えてこない。


 今はオーバーホールに出している私のGMTマスター。日本ROLEX
から戻ってくるのは5月頭になるだろう。
 スーツでもTシャツでも、無理なく私の左手首に納まってくれる
GMTマスター。戻ってくれば、またごく一般的な実用品としての
腕時計として、当然の様に"現在時刻を知らせる"という時計本来の
役目を、私の為に淡々とこなしてくれる事だろう。

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